
「もうすぐ退院できる。でも自宅でのお風呂はどうすればいいの?」——気管切開・胃ろう・在宅人工呼吸器などの医療的ケアをもつお子さんが病院から在宅に移行するとき、入浴ケアの準備は最も重要なテーマのひとつです。
病院では看護師が毎日行っていたケアを、自宅では家族が主体となって行うことになります。「病院ではできていたことが、自宅では自分だけで本当に大丈夫なのか」——その不安は退院を控えたほぼすべてのご家族が感じることです。
退院前から具体的に準備を進めることで、在宅移行後の入浴ケアをスムーズかつ安全に始められます。
退院前に確認しておくべきこと
主治医・退院支援看護師への確認事項
退院が決まったら、入浴に関して以下を必ず文書で残しながら確認してください。口頭確認だけでは自宅で迷ったときに頼れるものがなくなります。
入浴方法の許可範囲
- 自宅での浴槽入浴・シャワー浴は許可されるか
- 許可される場合の条件(訪問看護師の立ち会いが必要か、一人でも可か)
- 浴槽入浴・シャワー浴が難しい場合、ベッドサイドでのお湯を使ったケアは可能か
医療的ケア部位の管理方法
- 気管切開がある場合:水がかかってよい範囲・かけてはいけない範囲
- 胃ろうがある場合:入浴時の栄養注入との時間間隔・浴中の姿勢
- 在宅人工呼吸器がある場合:入浴中に外せる時間の目安
- 在宅酸素療法がある場合:酸素チューブを外した状態で許容できる時間
緊急時の対応
- 入浴中に呼吸状態が悪化した場合の対応手順
- 発作・急変が起きた場合にどの機関へ連絡するか
- 入浴を中止すべき体調の目安(体温・SpO₂の数値など)
退院前カンファレンスの活用
退院前カンファレンスには訪問看護師・相談支援専門員・理学療法士・作業療法士も参加することがあります。入浴ケアの手順・役割分担・緊急連絡先を関係者全員で共有できる唯一の場です。
カンファレンスでは以下を必ず議題に含めてください。
- 在宅での入浴方法の方針(浴槽・シャワー・ベッドサイドのどれか)
- 訪問看護師が入浴に立ち会う回数・曜日
- 訪問看護師が来ない日の入浴ケアは誰がどう行うか
- 使用する入浴補助用具の確認と操作練習の機会
カンファレンスで決まった内容は、訪問看護ステーションに共有し、サービス等利用計画にも反映してもらうことをお勧めします。
在宅での入浴方法を選ぶ
退院後の入浴方法は、お子さんの医療的ケアの内容・自宅の浴室環境・介助体制によって選択肢が異なります。代表的な方法とそれぞれの特徴を整理します。
浴槽入浴・シャワー浴
医療的ケアの程度が比較的安定している場合や、訪問看護師が立ち会える体制がある場合は、浴槽入浴・シャワー浴が可能なケースがあります。
選択のポイント
- 浴室まで安全に移動できる動線があるか
- 浴室内で吸引器・酸素ボンベなどを置けるスペースがあるか
- 浴槽への移乗を安全に行える体制(人数・用具)があるか
- 訪問看護師の立ち会いが確保できるか
浴槽入浴をいきなり始めるのではなく、まず訪問看護師立ち会いのもとで数回練習し、手順に慣れてから家族だけで行うという段階的なアプローチが安全です。
訪問入浴サービス
自宅に浴槽を持ち込んで入浴させてくれるサービスです。看護師・介護職員がチームで来てくれるため、家族の介助負担がほぼゼロになります。
訪問入浴のメリット
- 医療的ケアがあっても対応できるサービス事業所がある
- 毎回プロが介助するため安全性が高い
- 家族が一人介助でも利用できる
訪問入浴の課題
- 週2〜3回程度の利用が上限となることが多い
- サービスのない日の入浴ケアを別途確保する必要がある
- 事業所によって医療的ケアへの対応力が異なる
ベッドサイドケア(スイトルボディ)
浴槽入浴が難しい場合・在宅移行直後で浴槽介助に不安がある場合・訪問看護のない日の日常ケアとして、ベッドの上でお湯を使って全身を洗えるスイトルボディを活用するご家族が増えています。
スイトルボディはノズルからお湯を噴射しながら汚水を同時に吸引するため、ベッドのシーツを濡らさずに体を洗えます。
退院直後のご家族に選ばれる理由
- 浴槽への移乗が不要 → 転倒・転落リスクなし
- ベッドという安定した環境でケアできる → 慣れない在宅でも安心
- 気管切開・胃ろう部位を避けながらピンポイントでケアできる
- 訪問看護師と一緒に手順を確認しながら導入しやすい
- 訪問入浴のない日の毎日のケアとして継続使用できる
「退院直後は不安で浴槽は難しかったので、まずスイトルボディから始めた。半年後に訪問看護師と一緒に浴槽入浴の練習もできた」というご家族の声もいただいています。
医療的ケア別の入浴時の注意点
気管切開がある場合
気管切開口から水が入ると気道感染・誤嚥のリスクがあります。
- 気管切開部位を直接濡らさない(カニューレカバー・防水テープで保護)
- シャワーをかける際は顔・首元を避けて体幹・四肢から行う
- 入浴後は必ずカニューレ周囲を清拭し、水分を拭き取る
- 使用中に痰の量が増えた・咳き込みが強くなった場合は即中止
- 吸引器を浴室近くに準備しておく
胃ろうがある場合
- 栄養注入後は2〜3時間あけてから入浴する(逆流・嘔吐防止)
- 胃ろう部位は石けんで洗えるが、刺激が強いボディソープは避ける
- 胃ろうボタン・チューブが浸水しないよう防水処置をする
- 入浴後は胃ろう周囲の皮膚の観察(発赤・肉芽形成)を行う
在宅人工呼吸器がある場合
- 呼吸器を外せる時間の上限を主治医に確認し、必ずそれ以内に終わらせる
- 呼吸器外中はSpO₂モニターを装着したまま体を洗う
- 呼吸器の設定変更・接続操作は必ず訓練を受けた家族が行う
- 初回は必ず訪問看護師立ち会いのもとで実施する
在宅酸素療法がある場合
- 酸素チューブを外せる時間の目安を主治医に確認する
- 火気厳禁(酸素ガスは引火しやすい)。浴室に酸素ボンベを持ち込む場合は特に注意
- 入浴後の酸素飽和度を確認し、通常値に戻ることを確認してから終了
退院前に準備しておく用具・環境
自宅の浴室環境チェックリスト
- 浴室入り口・浴槽周囲に手すりが設置されているか
- 車椅子を使う場合、浴室への動線に段差・幅の問題がないか
- 医療機器(吸引器・酸素ボンベ)を浴室近くに置けるスペースがあるか
- 浴室の床・浴槽内にすべり止めマットが敷かれているか
- 緊急時に家族が助けを呼べる環境(スマートフォンを浴室内に持ち込むなど)
入浴補助用具の手配タイミング
退院前に必要な入浴補助用具を手配しておくと、退院後すぐに使えます。補助金(日常生活用具給付制度)を活用する場合は購入前に申請を完了させる必要があります。
補助金申請は退院前に動くべき理由
日常生活用具給付制度の申請から承認・納品まで、市区町村によっては1〜2ヶ月かかるケースがあります。「退院したら申請しよう」と考えていると、退院後すぐに用具が手元にない状態が続くことになります。
退院前に動くための具体的なタイムライン
| 時期 | 行動 |
|---|---|
| 退院2〜3ヶ月前 | 相談支援専門員・市区町村窓口に申請可否を確認 |
| 退院1〜2ヶ月前 | スイトルボディの見積書を取得(弊社に依頼・無料)→ 市区町村に申請書提出 |
| 退院1ヶ月前 | 承認通知の受領確認。遅れる場合は窓口に催促 |
| 退院直前 | 納品・設置を退院日前後に合わせてスケジュール |
退院が急に決まった場合は、病院の退院支援看護師・相談支援専門員に「急ぎで補助金申請を進めたい」と相談してください。
在宅移行後のサポート体制を整える
訪問看護の契約
退院前に訪問看護ステーションと契約を結び、入浴ケアの曜日・回数・手順を事前に確認してください。特に以下の点を明確にしておきます。
- 訪問看護師が入浴に立ち会う曜日と回数
- 立ち会い時間の目安(入浴準備・ケア・後片付けを含めた実働時間)
- 訪問看護師が来ない日の入浴ケアの方針
- 緊急時の連絡先・対応手順
相談支援専門員との連携
相談支援専門員は、訪問看護・障害福祉サービス(居宅介護・デイサービスなど)・福祉用具を含むサービス等利用計画を作成します。退院前から関わってもらうことで、入浴ケアを含む在宅生活全体の体制を整えやすくなります。
「相談支援専門員に入浴補助用具の補助金申請も一緒にサポートしてもらえた」というご家族が多くいます。
在宅移行後によくある入浴の悩みと対処法
「病院では看護師がいたが、自宅では一人で怖い」
最初はスイトルボディや訪問看護師立ち会いのもとで始め、慣れてきたら徐々に家族だけで行う範囲を広げていくアプローチをとるご家族が多いです。「一人でできるようになる」のを急がなくて良いです。
「入浴の手順を間違えないか心配」
退院前カンファレンスで確認した手順を、写真・文字でA4一枚にまとめた「入浴手順書」を作ることをお勧めします。訪問看護師に内容を確認してもらい、浴室に貼っておくと安心です。
「夏になって体臭・汗の問題が深刻になった」
浴槽入浴が難しい季節・体調不良の日でも、スイトルボディを使えば毎日体を洗えます。清潔を保つことで肌トラブル・褥瘡リスクの軽減にもつながります。
「子どもが在宅環境の入浴を嫌がるようになった」
病院という慣れた環境から自宅に移ったことで、環境の変化に戸惑うお子さんもいます。最初は部分浴や洗面から始め、徐々に全身ケアに慣れさせていくアプローチが有効です。作業療法士に相談することも選択肢のひとつです。
よくある質問
-
退院する病院でスイトルボディを試せますか?
-
一部の病院・医療機関では試用できる場合があります。担当の理学療法士・退院支援看護師にご相談ください。また弊社の体験会場(大阪梅田)でも実際に操作を体験していただけます。
-
退院後すぐに補助金申請できますか?
-
退院後でも申請は可能ですが、購入前に申請を完了させる必要があります。退院後に「すぐ購入したい」と思っても、申請が間に合わない場合があります。退院前から相談支援専門員・市区町村窓口に相談することを強くお勧めします。
-
訪問看護師と一緒に入浴の練習をしたい。
-
訪問看護師と一緒にスイトルボディの使い方を確認する機会を設けることができます。弊社から訪問看護師向けの操作資料・手順書もご提供できます。お気軽にお問い合わせください。
-
医療的ケアが複数ある場合でも使えますか?
-
気管切開・胃ろうなど複数のケアが重なる場合でも、ケア部位を避けながらケアできるよう対応しているご家族は多くいます。ただし必ず主治医・訪問看護師の指示のもとで、初回は立ち会いを依頼して実施してください。
-
退院後に浴槽入浴に移行したい場合はどうすればよいですか?
-
まずスイトルボディで在宅ケアに慣れ、主治医・訪問看護師に「浴槽入浴の可否」を再確認してから、訪問看護師立ち会いのもとで段階的に練習していくアプローチをとるご家族が多いです。慌てて移行する必要はありません。
退院前・退院直後のご相談をお勧めします
「退院が決まった」「在宅での入浴をどうするか相談したい」「補助金申請の見積書が欲しい」——早めにご相談いただくほど、スムーズに準備が進みます。
本記事は2026年5月時点の情報に基づいています。入浴方法・医療的ケアの管理については必ずお子さんの主治医・訪問看護師の指示に従ってください。補助金制度の詳細はお住まいの市区町村にご確認ください。


